事業用賃貸契約は、居住用賃貸契約と異なるため、違いをきちんと把握していないと、トラブルにつながる可能性があります。
この記事では、事業用賃貸の契約の流れや、契約で気をつけるべきポイントについて解説してます。契約がスムーズに行えるように、事業用賃貸物件を探してしている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.居住用賃貸契約と事業用賃貸契約の違い
2.事業用賃貸の契約の流れ
1)物件の申し込み
2)入居審査
3)契約
3.事業用賃貸の契約で注意すべきポイント
1)違約金について
2)契約解除について
3)原状回復について
4)営業補償に関する特約について
4.事業用賃貸契約を結ぶ前に基礎知識を押さえよう
1.居住用賃貸契約と事業用賃貸契約の違い
居住用賃貸契約と事業用賃貸契約には、3つの違いがあります。
- 使用目的の違い
- 初期費用の違い
- 契約保護の違い
居住用賃貸契約は住むための賃貸契約であるのに対し、事業用賃貸契約は商業・ビジネスのための賃貸契約と、物件を使用する目的が異なります。
一般的に居住用賃貸物件を事業用へと転用することは認められていません。物件オーナーの許可なく転用した場合は、違約金や契約解除といったトラブルにつながる可能性があります。
また、居住用賃貸契約と事業用賃貸契約は、初期費用も異なります。一般的に、事業用賃貸物件は居住用賃貸物件に比べて賃料が高く設定されている場合が多くみられます。そのため、賃料を基準として計算される初期費用も高くなります。
賃料に違いがある理由は、多くの方が出入りする事業用賃貸物件の方が、居住用賃貸物件よりも傷みやすいためです。
居住用賃貸契約では、消費者契約法によって借主が不利な契約を結ばないよう守られていますが、事業用賃貸契約ではそういった保護はありません。そのため、消費者契約で守られているかどうかも、居住用賃貸と事業用賃貸の違いといえます。
2.事業用賃貸の契約の流れ
事業用賃貸の契約は、次の3つのステップで行います。
1. 物件の申し込み
2. 入居審査
3. 契約
事業用賃貸を契約する際には、あらかじめ基本的な流れを押さえておくとスムーズに対応できます。物件の申し込みから契約完了までの流れについて、詳しくみていきましょう。
2-1.物件の申し込み
まずは、気になる物件をいくつかピックアップし、内見を行います。条件のよい物件はすぐに借り手が決まってしまうため、不動産会社のサイトなどはこまめにチェックしましょう。
気に入った物件の内見が終わったら、物件の申し込みを行います。申込書へ記入する主な情報は次のとおりです。
- 契約者の氏名
- 住所
- 連絡先
- 勤務先情報
- 連帯保証人の情報
物件の契約には連帯保証人も必要になるため、あらかじめ誰にするのか決めておきましょう。また、契約する物件によっては事業計画書の提出を求められる場合もあります。
注意したいのが、この申し込みの段階ではまだ契約締結となっていない点です。このあとの「入居審査」「契約」を経て、契約締結となります。
2-2.入居審査
物件の申込みが完了したら、借主の情報をもとに入居審査が行われます。事業用賃貸物件の場合、入居審査に数日かかり、結果がわかるまでに時間を要します。入居審査に落ちてしまう可能性もあるので、気に入った物件は3つ程度チェックしておくと安心です。
審査の基準として次のようなポイントが挙げられます。
* 申込者の支払い能力
* 事業計画の妥当性
これらの基準を満たすためにも、事業計画書を準備して、事業に対する熱意をアピールしましょう。
また、連帯保証人を立てない代わりに保証会社を使う場合は、入居審査と同時に保証会社の審査も行われます。
2-3.契約
審査に通過したら、契約を締結します。契約までに次の必要書類を用意しておきましょう。
個人契約の場合
* 住民票
* 連帯保証人の印鑑証明書
* 印鑑
* 実印
* 身分証明書
法人契約の場合
* 法人の謄本
* 印鑑証明
* 決算書の写し
* 連帯保証人の印鑑証明書
* 印鑑
* 実印
また契約締結前には、契約書をしっかり読み込み、少しでも気になる点があれば契約前に質問するなど、疑問が残らないように心がけましょう。
契約の際には、不動産会社の宅地建物取引主任者から重要事項説明が行われます。また、居抜き物件を契約する場合には賃貸借契約だけでなく、造作譲渡契約を締結しなくてはなりません。
契約締結後は、初期費用の支払いに進みます。初期費用には次のようなものがあります。
* 礼金
* 保証金
* 仲介手数料
* 前家賃
* 共益費・管理費
* 火災保険料
これらの費用について説明を受け、内容を確認した後、提示された金額の支払いを行いましょう。
3.事業用賃貸の契約で注意すべきポイント
事業用賃貸の契約は、一般的な居住用賃貸の契約とは異なる注意点があります。違約金や契約解除など、契約前に知っておくべき基本知識についてまとめました。これから事業用賃貸の契約を行う場合は、ぜひ参考にしてください。
3-1.違約金について
事業用賃貸の契約時には、どのような場合に違約金が発生するのか確認しておきましょう。一般的には次のような場合に違約金が発生します。
* 契約期間内に即時解約する
* オーナーの許可なく居住用から事業用へ転用
一般的に、事業用賃貸は2〜3年の契約期間が定められています。
退去する際には3ヶ月~6ヶ月前の申告(物件による)が必要ですが、申告を行わずに即時退去する場合は違約金が発生します。
また、物件のオーナーの許可なしに、居住用賃貸から事業用賃貸へ転用するのもNGです。場合によっては契約解除となる可能性もありますので、注意しましょう。
3-2.契約解除について
契約解除となるのは、次のような問題が起きた場合です。
* 賃料の支払いが滞ってしまった
* 物件のオーナーとの信頼関係が損なわれた
* 近隣住民とのトラブル(騒音問題など)が起きた
これらのように賃貸契約に違反があれば、無催告で契約解除となる場合があります。
無用なトラブルを起こさないよう、周囲に気を配るように心がけましょう。
3-3.原状回復について
事業用賃貸には、退去時の原状回復義務があります。
日常生活で自然と損耗する部分については原状回復義務はありません。しかし、借主に過失があった場合の損傷は修繕が必要です。
修繕が必要な損傷とは、次のような場合を指します。
* 物を落として床がへこんでしまった
* 物をぶつけて柱に傷がついてしまった
* 壁に画鋲を使って穴が空いた
* 薬品をこぼしてしまい、床の一部が変色してしまった
このような借主の過失による損傷は、原状回復義務の対象です。反対に、次のような場合は原状回復の義務がありません。
* 壁紙が太陽の光で色あせている
* ドアのパッキンがすり減っている
* 多くの方が出入りしてできた床の傷
このような原状回復についての線引きは難しく、借主が修繕を負担する部分について、契約書に記載される場合が多くなっています。
3-4.営業補償に関する特約について
営業補償とは「物件に何らかの問題があり、業務に支障をきたした場合や営業活動が行えなくなった場合に、物件のオーナーが補償する制度」です。
実際のところ、物件でトラブルが起こる度に営業補償をしていては、物件オーナーの負担が大きくなってしまいます。補償金額についてもほぼ借主の言い値のため、補償金額が数百万円に上るリスクも考えられるのです。
このように営業補償によるトラブルは数多く発生しており、それを防ぐためにも営業補償に関する特約が設けられています。契約書に「営業補償に関する請求は不可能とする」といった特約が記載されているケースもあるので、契約する際には注意しましょう。
4.事業用賃貸契約を結ぶ前に基礎知識を押さえよう
今回は、事業用賃貸契約と居住用賃貸契約の違いや契約の流れ、注意点について解説しました。
事業用賃貸契約には3つのステップがあり、確認漏れのないようにしっかりとチェックしてから契約に進むようにしましょう。また、契約についても個人契約と法人契約では、用意すべき書類が異なるため、注意が必要です。
事業用賃貸の契約では、原状回復義務や契約解除についてきちんと把握しておく必要があります。物件オーナーとの信頼関係にも関わるため、あらかじめ確認してから契約を結びましょう。